米マイクロソフトは5月20日(水)[日本時間]、Windowsの標準ブラウザの一つである「Internet Explorer(以下、IE)」のサポートを終了することを発表しました。

サポート終了日は2022年6月16日(木)[日本時間]となっており、それ以降はセキュリティやバグの修正プログラムの無償提供は行われません。

日本企業では特にIEが強く根付いており、業務システムやERPとして利用しているシステムがIE依存である場合が多く見受けられます。

まだ1年ほど時間はありますが、これからIE依存のシステムを大幅リプレイスする為には時間が少ない、と感じる方もいらっしゃるでしょう。

今回は、Webブラウザの歴史から概要、IEサポート終了に伴う家庭・企業がすべき今後の対応をまとめます。

Webブラウザの歴史

IEの全盛の時代 – 第1次ブラウザ戦争

IEは20年以上に渡ってWindowsでのインターネットブラウジングを支えてきました。
当時はIEのようなWebブラウザは革新的で、最も普及していた「NetScape Navigator」の使用数を1999年に大きく抜き去り、「インターネットブラウジングはInternet Explorer」という世代を築き上げました。
これは「第1次ブラウザ戦争」と称されています。

また、Windows標準のWebブラウザということもあり、「どのPCにも必ずインストールされている」「詳しくない人でも手軽に使える」という点から、情報を共通化する企業のWebシステムにも、手軽に調べものをしたい家庭にも大きく浸透していきました。

当時はWebブラウザが少なく、それにより各ブラウザがWebページを処理する為の機能を独自にカスタマイズを重ねており、「Web標準との非互換性問題」や「セキュリティ問題」が山積していました。

IEの停滞、新参の台頭 – 第2次ブラウザ戦争

第1次ブラウザ戦争に勝利したIEですが、当時はWebブラウザの独壇場だった為、IE 5.5 / IE 6では保守的な機能追加の姿勢を取りました。

そんな中、この独壇場に「Firefox」が大きく進撃してきます。

独自のWebブラウザエンジン「Gecko」を搭載し、より高速なWebレンダリング、ダブブラウジング、フィード購読機能、アドオンによるカスタマイズ性の向上が多いに注目され、人気が一気に急上。
王者IEの立ち位置を脅かす程の急成長を遂げていきます。

そして2009年、Prestoエンジンを搭載し軽量・軽快に動作するブラウザ「Opera」やMacやiOS標準ブラウザ「Safari」が登場、そして全てのブラウザの欠点を克服した「Google Chrome」が登場し、IE・Firefox・Opera・Safari・Google Chromeの五強時代へ突入します。

これが、「第2次ブラウザ戦争」です。

王者敗北、Chromeが圧倒的首位へ – 第3次ブラウザ戦争

ここまで、IE・Firefox・Opera・SafariがWebブラウザ市場を賑わせていましたが、それぞれ独自のエンジンを利用しており、それぞれが特徴を持ったブラウザとなっていました。

王者IE(Tridentエンジン)は言わずもがなWindows標準ブラウザで大きなシェアを持つものの、互換性やセキュリティに弱く、速度が遅い。
Firefox(Geckoエンジン)は高速なブラウジングが可能ですが、ソフトウェア自体の「重さ」があり生半可な性能のPCでは使い勝手が悪い。
Opera(Prestoエンジン)は軽快・軽量でIEとの互換性がありましたが、文字種による制限等が不評。
Safari(WebKitエンジン)はMacやiOS標準であり、Windowsでもインストールは可能ですがWindowsで使用するメリットはあまり無い。

そんな4強に対してGoogle Chromeが圧倒的成長を遂げます。

新進気鋭のGoogle Chromeは「軽快・軽量・カスタマイズ性」の三拍子を揃えており、セキュリティ機能が大幅に向上した為、2012年には瞬く間にFirefox、Opera、Safariを抜き去りました。
この流れに乗ったGoogle Chromeはやがて、同年に王者IEも抜き去って行きました。

Google Chromeは当時「WebKit」を搭載していましたが、2013年には開発効率向上の為「Blinkエンジン」へ派生変更し、これを元に「Opera」もBlinkエンジンを採用しました。

これに対抗する為にFirefoxは、より高速且つ軽量を目的とした「Quantum」プロジェクトを立ち上げましたが、圧倒的シェアを誇るChrome相手には思うような成果を上げることが出来ませんでした。

その一方で、MicrosoftもIEに代わる新しいブラウザ「Microsoft Edge(EdgeHTMLエンジン)」をリリースし、Windows 10の標準搭載ブラウザとして巻き返しを図りましたが、状況は覆りませんでした。
その為、Microsoft Edgeは世界シェアのGoogle Chromeとの互換性を優先する為、Google Chromeのベースとなったオープンソース版ブラウザ「Chromium」をベースとした「新Microsoft Edge」をリリースしました。

そして現在、Google Chromeが世界のブラウザシェアの6~7割を誇る巨大市場となり、Webブラウザにおける「デファクトスタンダード」の地位に立つこととなりました。
これが「第3次ブラウザ戦争」です。

IEはなぜサポート終了するのか

前述の歴史を元に解説します。

IEは全盛⇒衰退までの一途を辿ってきましたが、全盛時代のWebブラウザは独自にカスタマイズを施しており、「IEのサイトはFirefoxでは動かない」「FirefoxのサイトはIEでは動かない」と言った「非互換性」問題が指摘されていました。

昨今ではPCやスマホ、タブレットが急速に進化し、現代は「マルチプラットフォーム(どのOS/環境でも動作するプラットフォーム)」がデフォルトとなっており、この非互換性は許容されるものではありません。

また、最新のMicrosoft EdgeにはIEのベースプログラムを実行できる環境を持ちながら、Google Chromeの環境と同様にどのサイトにも対応できる為、「IEを使用し続ける必要性」は無くなっています。

さらに、セキュリティ的な懸念です。

日進月歩で成長するこの高度情報社会で、ブラウザ自体にセキュリティ的な懸念があることは致命傷に繋がります。

このような被害を減らす為にも、IEサポート終了は必然である、と言えます。

企業がすべき対応

Webシステムの検証・改修

まずは、現在使用しているWebシステムがMicrosoft Edgeや他のブラウザでも使用可能かを徹底して検証する必要があります。

特に日常的に使用する業務システムがIEで使用しているのであれば、業務に大きな支障が出かねない為、この1年以内に必ず検証を終え、新ブラウザに完全対応させる必要があります。

もし改修が必要であれば、積極的に改修を行いましょう。

特にユーザー数が多いWebシステムであれば、「サポート終了後でもIEでしか動作しない」というスタンスを保ってしまうと、IEを使用するユーザーは急激に減少する為、機会損失や顧客喪失等、長期的に見ても大きな影響があります。

今回のサポート終了は、以前よりMicrosoftが目に見えるように進めていたものであり、且つMicrosoftも「IEは危険なのでMicrosoft Edgeに乗り換えて」と警告を出していました。それこそ数年も前からです。

今が最もベストな切り替えのタイミングです。これを機に、積極的に新ブラウザへの対応を進めましょう。

全社員にIEの使用中止・移行を徹底する

これはOfficeのサポート終了と同様ですが、IEのサポート終了とOfficeのサポート終了では影響力が別次元で全く異なります

Officeの場合はマクロやVBA等で悪意のあるコードを実行される可能性がありましたが、これは「ファイルをダウンロードし、プログラムを実行する」と影響のあるものです。

その為、「外部からダウンロードしたマクロやVBAは使用しない」という方針で対策が可能でした。

しかし、Webブラウザの脆弱性は「Webページにアクセスしただけで被害に遭う」という驚異的な影響力を持っています。

通常、最新のブラウザは悪意のあるサイト、もしくはその可能性のあるサイトを自動的にブロック・警告を出すことが出来ます。
しかし、IEにそこまでの機能は無く、どんなサイトにもアクセス可能な為、「水飲み場方攻撃(特定のサイトに不正プログラムを仕込み、不特定多数に攻撃を仕掛ける攻撃手法)」や「クロスサイトスクリプティング攻撃(ユーザーに入力フォームを表示するWebページを仕込み、悪意のあるプログラムを実行する攻撃)」の被害に最も遭いやすくなります。

セキュリティ被害は、一度発生すると簡単に乗り越えることは出来ません。
たった一つの、たった一人の社員のミスで会社が倒産にまで追い込まれる可能性もあるのです。

だからこそ、サポート終了に向けて全社員には「IEは使用禁止」という通達を行い、且つ新ブラウザへの移行を促す必要があります。

家庭がすべき対応

ご家庭でも、調べものをしたい時にはIEを使用している場合があります。

その場合は、迅速に新しいWebブラウザへ移行しましょう。
ブックマークや入力履歴等は、新Microsoft EdgeであればIEから自動的にインポートしてくれます。

その為、複雑な作業は必要ありません。

セキュリティ被害は、法人個人問わず驚異的なものです。
「セキュリティソフトが守ってくれているから安心」という考えは、根本的に間違っています。
セキュリティソフトを入れていても、検知されなければセキュリティは無いことと同じです。

サポート終了とは、「検知出来ない脆弱性が見つかっても修正されない」という解釈も可能です。

ご家庭でも、サポート終了までには必ずIEから新しいブラウザへの移行を進めましょう。

また、「IEにしか対応していないサイト」は原則使用しないことを徹底しましょう。

特に銀行系システムではそれが顕著ですが、今回のサポート終了を受けて各銀行は徐々に対応を行っています。
例え間に合わなかったとしても、極力サポート終了後のIE依存Webシステムは使用しないことがベストです。


まとめ

IEはインターネットの普及に最も貢献してきた、歴史的なWebブラウザです。

その為、長く使ってきた人程、移行するには大きな抵抗が生まれやすいのも事実です。

ですが、日進月歩の情報化社会では仕方のないことです。
今日発表された最新技術は、明日にはさらに優れた最新技術が発表され、一昨日までの最新技術は古いもの、として扱われることも多々あります。

ITを活用するのであれば、進化するITに身を任せる必要があるのです。

特にこのコロナ禍で、情報セキュリティは一段と厳しくなり、比例して悪用する者の増えています。

そうした被害に遭わない為にも、サポート終了にはご自身でしっかりと対応する必要があるのです。

投稿者 システム担当 川口

株式会社イセヤマ システム開発担当(25歳)です。 業務システムやERP、CRM開発の他に、アプリケーション開発やインフラ構築・運用、社内外へのITコンサル・アドバイザーを行っています。